MOUMOUBOX HOME PRODUCT BLOG NOVEL GALLERY LINK MAIL

■狂った雪・番外編■

 

 

 





             


エピローグ






…私は…負けるわけにはいかなかった…

…だって…約束だから…













  病院の一室。

「…くぅ…ぅ…」

  今日も美汐は魘されていた。

  繰り返し襲い来る中毒症状と、恐怖体験による悪夢。

  美汐はいつも苛まれていた。

  だが、彼女は気丈にそれに絶え続ける。


…ここで…死ねば…どんなに楽だろう…

  弱気な心は美汐もそう促した。

  しかし、すぐにそれを打ち消す。

…いえ…そんな事はできない…

…あの子との…約束だから…

  美汐は歯をくいしばり、布団を掻き毟りながらもがいた。

  残酷な約束。

  そうとも思った。

でも…いつの日か、笑える日が来る。

  美汐はそう信じ続けた。





  そして、美汐は発作が治まる度、必ずある場所へ向かった。

  薄気味悪いくらい静かな病棟。

  その一角にいる少女に会う為に。

…とん…とん…

  美汐は小さく部屋のドアをノックする。

  中からの返事はなかった。

  そして、静かにドアを開くと、中に足を進める。

  中央にはベッドが一つ置かれ、そこには一人の少女が眠っていた。

  それは真琴だった。

「…真琴…」

  美汐は小さく呟くと、横に置いてある椅子に腰掛ける。

  だが、真琴は返事をする事はない。

  生きているか死んでいるかもわからないように眠っている。

  美汐は医者の話を思い出した。

「外傷もなく、病気も患っていない…。正直、なぜ目を覚まさないのが不思議なくらいだ…」

  だが。医者はその後、ふと呟く。

「論理的でない馬鹿げた話だが…この子は誰かを待っているような気がするな…。その時まで
眠っているつもりなのだろう…。さしずめ王子様を待つ白雪姫と言ったところかな…。おっと…
医者の発言ではなかったね、失敬失敬…」

  美汐はその言葉をしっかりと覚えていた。

  そして、その医者の言葉が夢物語ではないと言う事を痛感している。

…そうよね…真琴…。あなた…あの人に捨てられたって知らないんだよね…。

…そして…あなたをこんな目に遇わせたのが、あの人の仕業だって事も…。

…あの人は…あなたにとって…王子様でもなんでもないのよ…。

  美汐はいつの間にか泣いていた。

  他人事には思えなかったから。

  求める側と求められる側。

  真琴の思いが少しだけわかる気がした。

  しかし、それだけに辛い現実が胸を打つ。

…それに…真琴…。あの人はもうこの世にはいないのよ…。

…一生…ここに現われる事は無いのよ…。

…あなたは…それでも彼を待ちつづけるの…?

  美汐は真琴の寝顔を見ながら、呟き続けた。

  そして、ゆっくりと手を真琴の頭に乗せる。

「私じゃ…あの人の代わりにならないかな…?」

  美汐は真琴の頭を撫でながら、静かに囁きかけた。

  もちろん、真琴からは何も返っては来ない。

  しかし、美汐はもう一つの生きる喜びを見出した気がした。





  翌日。

「…ぅぅ…」

  この日も美汐は発作に魘されている。

  だが、二つの思いが美汐を支えていた。

  自分を救ってくれた者への思いと。

  自らが助けたいと思った者への思い。







  そして、美汐は今日も真琴の病室へ足を運び続ける。

  ささやかな奇跡が起きることを望みながら。



おわり