(3)
「まだこれじゃ終わらないよ」 気を失いかけた美汐を、真琴は前髪を握ると引き起こす。 いつしかロープは解けており、美汐はずるずると引きずられながら彼女の方を 向かされた。 床には冷え切った小便が溜まっており、美汐の下半身を汚らしく濡らす。 しかも、未だローターは秘部の中で蠢いており、意識が覚醒すると同時に 淫靡な刺激が再び体を苛んだ。 「…ぅぅ…、もう…や…やめぇ…」 美汐は虚ろな瞳で自らを覗き込む真琴を見上げる。 今まで見せた事のない、淫猥かつ非道な顔で笑う真琴。 美汐の胸は痛んだ。 「ねぇ…どうして…こんなことするの…」 彼女は声を絞り出すと真琴を見つめる。 「真琴が勝ったからよ」 だが、真琴は悪びれる様子もなく握っていた髪を強く引いた。 「…いたっ…」 激しい痛みとともに、美汐の顔は彼女の前に引き寄せられる。 二人は鼻が付いてしまいそうな距離で顔を突き合わせた。 「勝てば…何をしてもいいの…?」 「…え?」 「このゲームは…お互いが自分で作ったデッキの力を出し合って楽しむ事が 面白いのよ…、勝敗なんて…その結果に過ぎないじゃない…」 「真琴…一体どうしてしまったんですか…?」 美汐は体を襲う痛みと衝撃に耐えながら、必死に口を開く。 瞳からは再び涙が溢れていた。 「………………」 真琴は無言のまま美汐を見ている。 夕陽の差し込む部屋に長い沈黙が流れた。 微かに、美汐の中からローターが震える音だけが響いている。 「…くぅぅ…ぅぅぅ…」 「…あっ!?」 …ガタン しかし、次の瞬間、真琴は力が抜けたように体勢を崩した。 美汐を掴んでいた手も外れ、彼女も前のめりに床に落ちる。 …カランコロン… 同時に秘部からはローターが抜け落ち、部屋の隅に転がっていった。 「ま…真琴…!?」 完全に解放された美汐は、すぐに目の前に真琴を見る。 彼女は、蹲るように苦しみはじめていた。 まるで何かを吐き出してしまいたいような仕草を繰り返す。 「ま、真琴…」 「うぅぅ…く…苦しい…」 真琴は胸を抑えながら、悶えるように床を這っていた。 そして、力なく顔を上げる。 「え…!?」 美汐はその顔を見て驚きの声を上げた。 …ま、真琴の顔… そう、その苦しそうに美汐を見つめている彼女は、いつもの真琴だった。 純粋で疑う事を知らず、健気なまでに真っ直ぐな少女。 紛れも無くそれは真琴だった。 …ど、どういう事…? 美汐は困惑した。 だが、すぐに一つの結論に達する。 「真琴を操っているのは…誰?」 そして、美汐は静かな声で問い掛けた。 「……………」 真琴はその言葉を黙って受止めている。 だが、次の瞬間、再び彼女の顔に何かが宿った。 それは、真琴の口で話しはじめる。 「さぁ?」 「え…?」 「真琴は真琴だよ。前の真琴は一生眠ってるかもしれないけどね」 「何てこと…」 「だって真琴が望んだんだもの。あなたに勝ちたいって」 「……………」 「だから真琴は勝たせてあげたの」 美汐は愕然とした。 そして、それと同時にもっと早く見抜けなかった自分を情けなく思う。 「…酷い…」 「酷くないでしょ?真琴が望んでるんだもん」 「違うわ…、真琴はそんな娘じゃない…。その証拠に…今だって私の前に 姿を見せたじゃない」 「でも今の真琴は真琴だよ」 真琴を巡る二人のやり取りは続いた。 奪いたい者と奪われたくない者。 二人は静まり返った部屋でじっと対峙していた。 だが、美汐は一つの提案を持ちかける。 「…では…、もう一度…勝負してくれませんか…?」 「嫌だよぉ、もう勝ったんだから」 「もう一度…あなたが勝てば…、私は一生あなたに従います」 「う〜ん…でもぁ」 「………もしかして、勝てない…と思ってますか?」 そして、その誘いに迷っていた真琴に、美汐は少しだけ煽るように囁いた。 一つの賭けである。 しかし、それは見事に美汐の勝ちだった。 「わかったわ!やる!」 真琴は美汐の挑発に乗ると、再び先ほどのデッキを纏める。 美汐もポケットからもう一つ別のデッキを取り出すと、真琴の前に置いた。 「これで真琴が勝ったら美汐は一生奴隷だからね」 「わかりました…。でも…私が勝ったら、あなたは真琴の体から出て行ってもらうわ…」 彼女は、厳しい表情で真琴を見ると、デッキケースからカードを取り出す。 真琴もカードを切ると、美汐の前に差し出した。 部屋の中央に二人は座りながら向かい合っている。 美汐も真琴もショーツを膝まで擦り下げた格好で、足元は小便の池に触れていた。 だが、今の二人にはそんな事は関係ない。 「先攻は…?」 「美汐に選ばせてあげる」 「じゃあ…私が先にやらせてもらいます…」 美汐は悲壮な顔を浮かべながら、カードを7枚引く。 絶対に負けられない一戦だった。 …こんなのデュエルじゃない…、でも…真琴の為にも負けられないの… 美汐はそう心で呟きながら動きはじめる。 「では…<島>をセットして、ターン終了です」 「また青なの。美汐も懲りないわねぇ」 真琴は場に置かれたカードを見て笑った。 だが、美汐は無言のままやり過ごす。 心を惑わす暇はなかった。 そして、真琴は自分のターンに入り、カードを引く。 「じゃあ真琴はねぇ、<沼>セットして<暗黒の儀式>使うよ」 再び大量のマナを出すべく、唱えられたカードだった。 「待って」 しかし、美汐は次の動きを制すと<島>をタップし、1枚のカードを差し出す。 「それは<魔力の乱れ>でカウンターします」 「…あぅ…」 真琴は不満そうな顔をしながらも、カードを墓地に置いた。 「エンドよ!エンド!」 「わかりました」 そして、再び美汐のターンが巡ってくる。 美汐は場に2枚目の<島>を並べた。 「では、2マナ出します。使うのは<厳かなモノリス>」 「あっ!?」 その塔のようなものが描かれているカードを見て、真琴が驚いたような声を上げる。 しかし、美汐は動じることなく口を開いた。 「まさか、スタンダードでは使えない…なんて事は言わないですよね?」 「…あぅ、言わないわよぉ、それで終わり!?」 「ええ、これでエンドです」 美汐は手札を伏せると、静かに宣言した。 すぐに真琴は土地を起こし、カードを引く。 「じゃあ、また<沼>をセットして、今度は<Hymn to Tourach>を使うわ」 そして、2枚の土地を倒すと、彼女はさらに強力な呪文を使った。 だが、それを美汐は完全に読んでいる。 「待ってくださいね」 「待つって?無色マナしか無いじゃないのよぉ」 「はい。でもマナはいらないので」 美汐はそう言うと、2枚のカードを手札から出した。 「<Force of Will>を使ってカウンターします。リムーブするカードは<直感>です。 それと1点のライフを支払いますね」 それはマナを使わずして呪文を打ち消せる古いカードだった。 真琴は地団駄を踏むように、再び墓地へとカードを落とす。 「エンドよ!」 次第にその顔には焦りが浮かんでいた。 もちろん、それは彼女の体に宿っている者の姿である。 …これで終わるはず… 美汐はカードを捲ると、このターンの動きをゆっくりと頭の中に思い浮かべた。 そして、小さく深呼吸をすると、彼女は動き出す。 「では…、まずは島を2枚タップして青2マナを出します」 「次に<噴出>を使って、その島を2つ手札に戻してカードを2枚引きます」 「それから、<島>をセットします」 「<厳かなモノリス>をタップして無色3マナを出して、その無色マナの一つを 使い<通電式キー>をセット。そして、さらに<キー>を1マナ払ってタップして <モノリス>をアンタップします」 「あぅう…」 「次に<モノリス>を再びタップして無色3マナ…。これで現在、青2マナと 無色4マナがマナプールに入ってます」 「そして、そのうちの青1マナと無色3マナを使い<Illusions of Grandeur> をセット。これで私のライフは39点になりますね」 「………………」 「それから、先ほどセットした<島>をタップ。青1マナを追加して、今は 青2マナと無色1マナになりました」 「最後にその3マナを使って<寄付>を打ちます。対象のプレーヤーは真琴、 対象のパーマネントは<Illusions of Grandeur>です」 「これでターン終了です」 数多くの工程がこのターンの間行われた。 その結果、美汐は20点のライフを得ており、真琴は場から離れると20点を失う エンチャントを押し付けられている。 しかもそれは維持の為に、真琴のアップキープフェーズに大量のマナを要求する のだ。 「……あぅぅ…」 それでも真琴は投了する事はせず、土地を起こすと、アップキープフェーズに 入った。 「2マナ払えばいいのね…」 彼女は自分の場にある全ての土地を倒すと要求されるマナを支払う。 そして、1枚カードを引いた。 「うぅ…」 しかし、当然の事ながら支払いにマナを充ててしまった為、彼女に残された マナはこのターンに土地をセットした1マナだけである。 しかも、黒ではエンチャントを壊す事が出来ず、仮に壊せたとしても20点の ライフを支払わなければいけない。 正に八方塞りの状態だった。 …お願い…早く終わって… 美汐はそんな真琴を見ながら、ただひたすら祈っている。 正気の真琴に戻る事を信じて。 「…うぅ…ダメ…、真琴の負け…」 次の瞬間、真琴はそう言うと、手に持っていたカードが床に零れた。 そして、そのまま崩れ落ちるようにその場に平伏す。 「…うぅ…ぐぁぁ…」 「ま、真琴…!?」 まるで真琴を包むように、薄暗い靄のようなものがかかった。 それは次第に彼女から離れていく。 『…くそぉ…まさか負けるなんてぇ…』 そして、聞いたことの無い不気味な声を美汐に発した。 だが、美汐はそれを厳しい目つきで見上げる。 「負けて当然…です」 『なんでよぉ…』 「戦いに絶対と言うものはありません。ましてや相手を見下したり、不快に させたりする人は尚更…」 『うるさいわね、いい人ぶったって勝てないでしょ!』 「確かにそうかも知れないです。でも…、私は相手を貶めてまで勝つ気には なれません。デュエリストとして以前に…人として真っ当でありたいと思って います。…もっとも今回だけは別でしたが…」 『くぅぅぅぅ』 「だからこそ…私は続けているんです。気持ちの良いデュエルを求めて…」 『……………』 沈黙が流れた。 だが、暫くの後、真琴に掛っていた靄は完全に消え去っていた。 …助かった…の? 美汐は目の前で倒れている真琴の傍にそっと近寄る。 そして、静かに体を起こした。 その表情は、既にいつもの彼女に戻っており、穏やかな顔で眠っている。 …良かった… 美汐の頬から涙が溢れた。 それが一滴、真琴の額に落ちる。 「…ぅん…」 そして、それに反応するように彼女はゆっくりと目を覚ました。 美汐の体に安堵感が広がる。 「ど…どうしたの…?美汐?」 真琴は不思議そうな顔で、美汐を見ていた。 美汐はそんな真琴に笑顔で応える。 「おはよう…真琴」 その後、真琴の部屋はてんやわんやだった。 汚れた部屋を掃除したり、服を着替えたりと、二人はバタバタと後始末に 追われている。 そして、一段落ついた時には、すっかり日も暮れていた。 だが、幸いにも水瀬家の住人は誰も戻ってきてはいない。 「お風呂、入りましょうか?」 「…一緒に入って…くれる?」 「うん。もちろん」 「わぁい。やったぁ」 真琴はまるで子供のように両手を上げて喜んだ。 美汐もその顔を見て、安堵感に浸る。 …よかった… …本当によかった… そして、二人は浴室へと向かった。 汚れた服を脱ぐと二人は浴室の中へと入っていく。 もちろん何も身に着けては居なかった。 生まれたままの姿で、二人は並ぶように奥へと進んでいく。 「お風呂♪お風呂♪」 真琴は意味不明な歌を歌いながら、くるくると浴室を回っている。 「ほら、あんまりはしゃぐと転んじゃいますよ」 美汐はまるで母親のように、彼女を諭した。 だが、その顔は終始笑顔だった。 そして、美汐はボディーソープをスポンジに塗すと、丹念にそれを泡立てる。 「わぁ…泡がいっぱい」 「さぁ、綺麗にしましょうね」 「うん」 美汐は丁寧に真琴の体を擦っていった。 すぐに隅々まで彼女の体は泡に包まれていく。 「今度は真琴が洗ってあげる♪」 「ありがとう」 そして、すぐに真琴のお返しだった。 決して丁寧とは言えなかったが、彼女なりに美汐の体を拭いていく。 あっという間に、二人は泡に包まれた。 美汐は風呂桶でお湯を掬うと、真琴の前に差し出す。 「では、そろそろ流しましょうか」 「うん」 真琴は少しだけ名残惜しそうだったが、その桶を受け取ると勢いよく二人目掛けて お湯を流した。 …バシャァ 全ての汚れを流すように、お湯は二人の泡を削ぎ取っていく。 そして、泡が完全になくなるまで二人は何度もお湯を浴び続けた。 「さぁ、温まりましょう」 「うんっ」 最後に二人は仲良く湯船に浸かる。 寄り添うように、二人は天井を見上げた。 「…美汐…、ごめんね…」 そんな中、真琴が消えるような声で呟く。 同時に、お湯の中で指が重なった。 「どうかした?真琴?」 「もしかして…真琴が何かしたのかなぁ?」 真琴は不安そうな顔で美汐を見る。 「どうして?」 「真琴…昨日の夜から記憶がないの…、それに目が覚めたら…あんなだったし… 知らないうちに…美汐に酷い事しちゃったのかな…って」 そして、そう言うと真琴は少しだけ怯えた目で美汐を見上げた。 だが、美汐はただ優しく微笑みを返す。 「違うわ。いつの間にか過程より結果を重んじるようになっていた私に 神様が罰を与えてくれただけよ」 「そんなぁ…」 「もう済んだ事よ」 「…あっ…」 美汐は暗い顔になった真琴の背後から自らの体を重ねた。 そして、優しく手を回し、そっと彼女を抱き寄せる。 真琴もそれ以上何も言う事は無く、ただ美汐に体を委ねた。 のぼせてしまいそうだったが、二人はお互いの体温を感じるように いつまでも身を重ねていた。 これからも、ずっと一緒にいられる事を願いながら。 Fin ☆あとがき☆ エロ薄くて申し訳ないです(苦笑 テーマがテーマなんでどうしても厳しかったってのはありますが どんなに真面目なお話でも、エロは両立させたいと思っていますので そういう意味では不本意でした。 ■戻る |
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