プロローグ
秋風が吹きはじめた頃、ここ「Pia☆キャロット2号店」では一つのささやかな事件が
起こっていた。
「……?何これ?」
今日も颯爽と出勤してきた日野森あずさは更衣室のドアに張り出されていた紙を
まじまじと眺めた。
その紙にはこう書かれている。
人事発令
以下の人事は10月1日を以って執り行われるものとする。
2号店店長・相馬 晴彦(本部マネージメント課係長)
本部電算室・木ノ下 祐介(2号店店長)
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要は店長の交代と言うことだった。
特色ある可愛いコスチュームで若者の心を捉えたこのファミレス「Pia☆キャロット」
だったが、同系レストランの進出や世の中を駆け抜ける流行に遅れを取り、最近は
経営状況も万全とは言えないものになっていた。
その中での降って湧いた突然の人事であった。
「1日って明後日じゃない?…なんとまぁ、急な話ね…」
そう言うと、解せない表情を浮かべながらあずさは更衣室に入った。
中では上がりのアルバイトやこれから勤務につこうとしている女性達がその話に
花を咲かせていた。
「どうして、本部のエリートさんが現場に降りてくるのかしら?」
「そうですよね、売上げ調査とかの仕事してた方でしょ?」
「厳しくなりそうな予感…」
「でもぉ〜、カッコイイ人だと嬉しいな」
「ったく、あんたはすぐそれだ」
女性陣たちは茶化しながらも興味深々で噂話に夢中になってる。
「ほらほら話はあとあと、二日もすれば飽きるほど拝めるんだから。それに、
あなたたちはそろそろ時間でしょ?」
あずさは、ぱんぱんと両手を叩きながらいつものノリで横槍を入れた。
「あ、そうだ、急がなきゃ」
「さて、そろそろ帰らないとデートに遅れちゃう」
「って、あんたに相手いる訳ないじゃん」
「うるさいわねぇ〜!」
「わははは」
そして、彼女達はそう言いながら一斉に散らばりはじめた。
この店のごく普通の風景だった。
この場所で働きはじめ、はや1年、あずさも今回の店長交代に関しては
決して無関心では居られなかったが、明るく元気な仲間達に囲まれている
事を考えると、そんなに深刻に思うことはなかった。
そして、メイド服をモチーフにしたユニフォームに袖を通すと
仕事場に通じるドアのノブに手をかける。
そして、小さく自分に言い聞かせるように呟いた。
「さて、今日も頑張らなきゃね☆」
こうして、今日もあずさの1日が始まる。
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