第14話「萌芽(4)」
あずさが台本を渡されたのは、それから20分ほどしてからであった。
もちろん、それまで彼女は相馬と島野に奉仕していたのだ。
相馬には肛門を舐めさせられたまま手コキを要求され、島野は素股である。
長井への奉仕から休む暇を与えられなかったあずさは、彼に抱いていた恐怖を引きずりながら二人に相対するしかなかった。
彼らは特に難題をふっかける事はなかったのだが、あずさ自体がそうであったため行為には自然と熱が入り、想像以上早く終わっている。
だが、二人もあずさの顔に射精したため、今も顔には3人分の精液がこびりついていた。
それを拭き取ったり、洗ったりする時間は与えられていない。
彼女はそんな汚らしい顔で、台本のページを捲っていく。
そこには終始インタビューの受け答えの内容が記されており、演技については全く書かれていなかった。
だが、あずさはその中に書かれている文章を見て目を丸くする。
…そ…そんな…
それは常軌を逸しているとしか思えない質問の数々であった。
しかも、その答えはもっと狂っているのだ。
それを自らが言わなければいけない…。
それだけで胸が苦しくなる思いだった。
「ふふ、どうだい?面白い質問ばっかりだろう?俺が書いたんだぜ」
「……うぅ…」
島野の言葉にあずさは言葉を詰まらせる。
3人の中では、一番まともそうな男だったが、この内容を見る限り外見と中身は釣り合わない事を思い知らされた。
もっとも、彼女をこんな目に遭わせている時点で狂っているのは間違いないのだが。
「台本を覚える時間は1時間だからな」
「もちろん、覚えるだけじゃダメだぞ?誰が見てもお前の本心だと思えるようにするんだ」
「もし、それが出来なければ代わりを立てる」
すると、相馬が言葉を挟んでくる。
冷淡で無慈悲な態度だった。
「…か、代わりって…?」
「そんなの美奈に決まってんじゃねーか」
今度は長井が突っ込んでくる。
「…そ、そんな…」
あずさの気持ちを余所に、過酷なスケジュールが決まっていた。
しかも、その代役は妹の美奈なのである。
それは、何が何でも彼女がこの台本に書かれている台詞の数々を言わなければいけない事を意味していた。
…もう…覚えるしかないのね…
あずさは精液でベトベトになった顔を再び台本に向ける。
その度にポタポタと液体が垂れ落ちていく。
それが精液なのか涙なのかは自分でもわからなかった。
「よし、そろそろ時間だ」
相馬の声が1時間経った事を示していた。
「台詞は覚えたかい?」
島野が尋ねてくる。
「…覚えたと…思います…」
あずさはそう答えた。
自信があった訳ではないが、何とか頭には詰め込めたはずである。
ただ、問題はそれを自分の言葉で言えるかどうかだった。
しかし、妹の運命が掛かっている以上、後には引けなかった。
「それじゃあ、身体を拭いて、これに着替えてくるんだ」
「…はい…」
あずさは島野にタオルと衣装の入った紙袋を渡されると、洗面所へと向かう。
殆ど未使用のその部屋は、高級ホテルのようだった。
奥には浴槽があり、広々とした浴室が見えている。
窓は何処にもなかった。
もっとも、今のあずさには逃げるという選択肢は完全に欠如しており、とにかく美奈に危害を及ばせないために自らが犠牲になる覚悟だった。
その先に早苗のような運命が待ち受けているとしても。
彼女は全てを脱ぎ捨てると、洗面台に水を張った。
そして、タオルを水に浸すと、精液がこびりついた身体を拭っていく。
濡れていた秘部も、余すところなく拭き取った。
こうして、見た目の綺麗さを取り戻すと、あずさは紙袋を開ける。
「……そ…そんな…」
そこで彼女が目にしたのは、よく見慣れた衣装だった。
紫色のスカートとリストバンド、赤く大きなリボン、肩口が紫の白いブラウス…。
それは紛れもなく普段自分が来ている服だった。
すなわちファミレス「Piaキャロット」のユニフォームである。
……うぅ……
再びあずさを激しい不安が襲う。
台本では自らの名前をはっきりと言う事になっている。
職業もファミレスの定員と言わなければならない。
だが、この服を着ていれば、選択の余地はなかった。
嫌が上でも、自分とその居場所がわかってしまう。
そればかりか…ビデオを見た人間が大挙して押し寄せてくるかも知れなかった。
そんな要素が、台本には山のように詰まっているのだ。
「……………………」
あずさは呆然と立ち尽くす。
しかし、もう戻れはしないのだ。
彼女は無言のまま、その衣装を手に取った。
そして、言いしれぬ恐怖に怯えながら、それを着込んでいく。
あずさが部屋に戻ると、既に撮影準備が出来上がっていた。
カメラをセットしていたのは長井である。
島野もハンディカメラを握りながら、今も台本を読んでいた。
そして、ソファーには全裸の相馬が座っている。
「そろそろはじめるぞ?あずさ。さっそく相馬さんの前に跪いてチンポを握るんだ。それがお前のマイクだからな」
どうやら監督は島野のようであった。
彼はそうあずさに指示を飛ばすと、相馬の背後に回る。
長井はカメラをソファーの下を映すようセットすると、彼女が来るのを待っていた。
「…は…はい…」
あずさは不気味に張り詰めた空気の中、真新しいユニフォームに身を包んだまま指示通りの場所に座る。
目の前には萎えた男根があずさを待っていた。
「よっしゃ、カメラのセットはOKだぜ」
長井がそう言うと、島野に合図を送る。
「ほら、まずは勃たせてくれよ?」
相馬もスタンバイするために、彼女に奉仕を促した。
あずさはすぐに言われたとおりに男根を握る。
そして、ゆっくりと手で扱きはじめた。
すぐに男根は天を突いていく。
「よし、まずはあずさのフェラから行くぞ?俺が合図するまでチンポをしゃぶり続けるんだ」
「カメラも回していいよ」
島野はてきぱきと指示を出すと、自らもハンディカメラをあずさに向けた。
こうして、撮影が開始される。
「…ちゅぱぁ…くちゅ…」
あずさは男根を咥え込むと、熱心にしゃぶりはじめた。
根元まで咥え込み、口内でねっとりと舌を絡ませる。
指もその動きに合わせるように、付け根や玉を弄っていた。
なんの躊躇も抵抗もない、濃密なフェラチオ。
それだけで、素人でない事がひしひしと伝わっている。
しかも、時折、島野の合図を確認するべく上目遣いを見せる仕草が、その淫靡さを際だたせていた。
「それじゃあ、いいかな?」
そんな中、島野はいかにも爽やかそうな口ぶりで、あずさに声をかける。
「…ちゅぽ…、はい」
彼女はそれに笑顔で応えた。
もちろん、内心は気が気ではない。
だが、その悲壮感が、逆にその純粋な笑顔を強調させる。
一歩間違えば、妹が自分と同じ目に遭ってしまうのだ。
それだけは避けなければならなかった。
「ちょっと色々聞かせて貰うよ」
島野の穏やかな声。
「はい…何でも聞いて下さい」
インタビューはこうやって始まっていく。
最初は彼女の名前と職業、年齢という無難なものだった。
とは言っても、あずさの素性を明かすと言う意味では決してそうではなかったのだが。
それでも、あずさは決してたどたどしいところを見せることなく質問に答えた。
「あれ?そういえばあずさちゃん?よく見ればノーブラなんだね?」
すると、島野がわざとらしく話題を変えてみせる。
だが、それは台本通りだった上、あずさがブラジャーをしていない事は事実だった。
「ええ、そうですね」
「仕事してる時もそうなのかな?」
そして、彼の質問はそこに及ぶ。
あずさはこれから自らが口走らなければいけない台詞に恐怖を覚える。
だが、それを顔に出した時点でアウトなのだ。
「…えっと、そうですよ。だって面倒じゃないですか」
「でも、面倒って?着けるのが?」
「違いますよぉ。セックスする時ですよ」
あずさは臆面もなく答えた。
まさに迫真の演技である。
だが、気合いを入れれば入れるほど、それは彼女の存在を自らの手で貶めていくのだ。
「え〜?あずさちゃん仕事中にセックスするのぉ?」
そんなあずさに島野は驚いたように尋ねてくる。
彼の演技もなかなかのものだった。
「だって、いつお客様に誘われるかわからないじゃないですか。チャンスさえあれば店内でセックスしてもいいと思ってますから」
あずさはそう言うとにっとりと微笑む。
もちろん、内心は恥ずかしさと悔しさを禁じ得なかった。
しかし、その姿は誰が見ても痴女にしか見えない。
そんな様相である。
「すごいねぇ。それじゃあ、あずさちゃんって初体験はいつなの?」
「え〜とぉ…18の時かなぁ」
「18って…あずさちゃん18歳だよね?」
「はい、そうですよ?」
あずさは如何にも話が理解出来ていないような、不思議そうな顔を浮かべる。
心の中では痛いほどわかっていたが。
「それって…すごい最近なのかな?」
「…半年くらい前ですかねぇ?」
「そ、そうなんだ…」
半ば呆れたように言葉を紡ぐ島野。
あずさは今にも溢れてきそうな涙を必死で堪えながら、カメラに向かい微笑み続ける。
「じゃ、じゃあ相手教えてくれるかな?」
「あ、誰かわからないんですよ」
「え??それって?」
「実はですね、私の初体験ってレイプなんですよ、すごいでしょ?」
まるで勝ち誇ったかのように、嬉々として自分の恥部をひけらかすあずさ。
演技とは言い難い口調と表情。
男根を握らせている相馬ですら、その気迫に苦笑いを浮かべていた。
「よければ詳しく教えてくれるかな?」
「はい、いいですよ。お店からの帰りに…私、突然、車に連れ込まれちゃったんですよ」
「その中で、朝まで大勢の男の人に犯されちゃいました」
「でも、でもですね。すっかり私感じちゃって…それでセックス大好きになっちゃいました」
あずさは偽りの過去をまるで真実のように語っている。
もちろん凌辱された事は事実でだったが。
その告白に、彼女自身、その言葉が自分の意思であるかのように錯覚を覚えるほどであった。
だが、美奈の命運が懸かっていたため、それを善しとしなければいけないほどあずさは追い込まれている。
「セックス大好きなんて羨ましいなぁ。それならこの半年でいったい何人くらいとセックスしたんでしょ?」
「え〜、100人くらいかなぁ」
「100人!?…それってほぼ毎日セックスしてるって事?」
「そうですね、お仕事してる時以外はほとんどチンポしゃぶってますよ」
「凄いなぁ…あずさちゃんって男友達いっぱいなんだね」
「あっ、そんな事ないですよ〜。だって、誰でもいいんですから」
次々と島野の質問に答えていくあずさ。
まさに必死である。
もちろん、言葉一つ紡ぐたびに、心が蝕まれていくような感覚に陥っていた。
だが、それを振り払うように、彼女は演技に没頭していくのだ。
しかし、その努力はビデオを見た人間に、自らが尻軽である事を宣伝しているだけである。
今のあずさにそれを心配する余裕はなかったが。
そして、更にダメを押す質問が彼女に浴びせられる。
「誰でもいいの?」
「はい、そうですけど?」
「それって、もしかして?タダじゃないのかな?」
「…いやですねぇ。チンポ貰えるならお金なんて取りませ〜ん。逆に払ってもいいくらいですよ」
そう言うと、満面の笑みを浮かべたあずさは、そっと男根に頬ずりをはじめた。
淫靡で妖艶な仕草。
これが演技だと疑われる要素はなかった。
しかも、それは確実に2台のカメラに焼き付けられている。
だが、あずさはそんな事も忘れ、ただ全てを言い終えた安堵感に包まれていた。
そして、惰性のように男根への頬ずりを続ける。
もちろん、カメラには彼女の心の中を捉える事は出来ない。
今はまだ偽りの姿であるという事を。
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