第1話「罠」 ……私には関係のないことだった… ……その時までは…… 放課後。 天野美汐は今日も一人で学校を後にする。 彼女のいるこの場所は以前の賑やかさは影を潜めていた。 半月前に発生した数々の事件の影響で生徒の退学や休学、 そして登校拒否が相次いでいたからである。 しかし、美汐にはその事件自体に関心がなかったので 全くの他人事だった。 いつもと同じ道を歩き、いつもと同じ街並みを目にし、 そして、自分の家に帰る。 ただ、その繰り返しだった。 しかし、夕食を済ませ寝るまでの時間をただぼんやりと 本を読んで過ごしていた彼女に階下から声がかかった。 「…美汐?電話…」 ……誰?…私に電話なんかかけてくるのは…? 美汐は訝りながら、ゆっくりと階段を降りた。 そして、母親から受話器を受け取ると静かに口を開いた。 「…はい…」 「天野美汐さんですね?」 「……そうですけど…誰ですか?」 「…相沢祐一の友達です」 聞き覚えのある忌まわしい名前に美汐は少しだけ眉を顰めた。 「…それで…私に何の用ですか?」 「実は相沢にある事を託されてまして…」 遠まわしに話す電話口の相手に美汐は苛立った。 「…別に話すことはありません。それでは…」 「あ…ちょっと待ってください!真琴って娘のことなんです」 受話器から耳を離した美汐だったが、男の口から発せられた固有名詞に その手が止まった。 …真琴?……あの子……。 「…で…真琴がどうかしたんですか?」 再び受話器を握り直し美汐は問い掛ける。 「はい、実は…真琴って娘が行き場所がなくて困っているはずなので 天野さんだったら面倒を見てくれると思うから連絡してやってくれって 事だったんですが、連絡先がわからなくて…」 ……まだ生きてるの……? 美汐の瞳が少しだけ揺れる。 しかしその瞬間、自らそれを打ち消した。 「……私にはそんなこと出来ません…」 ……もう同じ悲しみは繰り返したくない…。 美汐の受話器を握る手に力が入る。 「そこを何とかお願い出来ませんか??」 「……出来ません…ごめんなさい…」 「…仕方がないですね……じゃあ…一度だけでも 会ってもらえませんか…?……かなり弱っているので…」 …………。 美汐は悩んだ。 沈黙の時間が続く。 ……っ……。 美汐の脳裏に過去の辛い記憶が霞めた。 しかし、口をついた言葉はその思いとは裏腹なものだった。 「…わかりました…ですけど…一度だけですから…」 「ええ…助かります…それでは場所は………」 …私は同じ過ちをまた繰り返すのだろうか…? 美汐は部屋に戻ると、厚手のセーターとコートを羽織りながらそう思った。 時計は既に9時を回っていたが、彼女は家を出ると街外れの閉鎖されている 病院に向かい歩きはじめる。 しかし、その場所に着いた美汐を待っていたのは真琴だけではなかった。 「………」 美汐は誰もいない、暗闇の廊下を歩いている。 暖房など入っている訳もないが、外の寒さに比べれば幾分マシだった。 どのくらい歩いただろうか。 ようやく、眼前に灯りの点いている部屋が見つかる。 彼女は軽くノックをすると、ゆっくりとドアのノブを回した。 「………!?」 しかしその瞬間、中にいた男に腕を掴まれ美汐は一気に部屋の中に 引き込まれた。 そして、男は彼女の鳩尾に容赦なくパンチを浴びせる。 「……ひぐ…ぅ……!!」 美汐はあっけなく気を失い、その場に崩れ落ちた。 ………… 数時間後、美汐はようやく気を取り戻した。 殴られた個所の痛みは気にならなかったが、目を覚ました彼女は自らの姿に 思わず絶句する。 「………」 美汐は椅子に座らされていた。 しかも、見たことのない服のようなものを着せられて。 見渡す限り薄闇が広がる部屋で美汐はゆっくりと自分の体を見た。 両手はしっかりと後で固定され、動かそうとしても鎖のような音が するだけでビクともしなかった。 両足には皮で出来たタイツのようなものを履かされ、それぞれがきつく 椅子の足と一緒に鎖で縛られていた。 腰にもやはり同じような拘束具が着けられ、首には犬がつけるような 首輪が巻かれている。 しかし、他には何一つ身に着けてはいなかった。 「……寒い……」 時折吹きつける隙間風に美汐は肩を竦めた。 ……私…騙されたのね……。 忌まわしい男の名を聞いた時に、そこから離れるべきだった。 美汐は少し後悔した。 美汐が目を覚まし、既に30分以上が経過していた。 しかし、部屋には誰も入ってくる様子はなかった。 「……ぐすっ……」 元々、体力には自信がなかった美汐は限界を感じていた。 しかも暗闇と寒さが一層、彼女の心に不安を投げかける。 ……助けて…誰か…… …おかあさん……おとうさん…… …っ……… その時、美汐の記憶にかけがえのなかった相手の姿が浮かんだが、 彼女は必死にそれを打ち消した。 …思い出しちゃいけない…いけないの… 惨めな姿をさせられていることも忘れ、美汐は必死に頭を振った。 彼女の瞳から大粒の涙が零れる。 だが、ただ孤独と不安は募るばかりだった。 …ぶるっ…… そして美汐は小さな震えとともに尿意を催した。 ……そんな…… 彼女は必死に拘束から逃れようともがきはじめる。 しかし、どんなに体を揺すってもきつく縛られた鎖を解くことは 彼女には出来なかった。 そればかりか、動くたびに次第にその感覚は下腹部いっぱいに 広がって行く。 「……たすけて……た…すけて……」 美汐は声を上げた。 「…誰か…誰か……このままだと……私……漏らしてしまう……」 「…お願い……」 まるで堰を切ったように、美汐はただ暗闇の奥に見えるドアに向かい 叫び続けた。 その瞬間にも、限界は迫ってくる。 「……はぁ…はぁ……もうダメぇ…うぅ…」 だんだん声を出すことすら辛くなってきたが、美汐は体が動く範囲で 精一杯、腰を丸め下を向いた。 だが、遂に彼女に救いの手が差し伸べられることはなかった。 …ちょろ…ちょろ… とうとう、暗闇の中に露わになっている美汐の股間から、ゆっくりと 小水が滴りはじめる。 ……ひぃぃ…… 美汐は必死に腹に力を込め、何とかその滴りを食い止めようとしたが 我慢は限界を超えていて、とても止められるものではなかった。 …じょろ……じょぼ…じょぼ…… そればかりか、その小さな流れはやがて大きな濁流へと変化し 美汐の薄っすらと生え揃った恥毛の隙間からは大量の小便が 湯気を立てながら椅子から自らの足を伝わり床へと流れていく。 …くぅぅ……ぅぅ…… 自らの体内から放出される汚液の湯気を顔に受け、恥ずかしげもなく 音を立てていることに神経を蝕まれながら美汐はただ天井を見上げ るしかなかった。 ……じょろろ……ちょろ…ぴちゃ… そして、足下に大きな湖を作ったころ、ようやくその行為は終わりを 迎えた。 椅子からは今も雫が滴り落ちている。 「…ぐすっ……うぅぅ……わぁぁぁぁん…うぅぅ…わぁぁぁぁぁん……」 美汐は何かが切れたように、大声を張り上げて泣いた。 「うぇぇぇぇぇん…うぅぅ……わぁぁあぁぁぁああぁん…わぁぁあぁぁん…」 椅子の上に溜まり尻を濡らす小便や、太股の痒さなどに構うことなく とにかく美汐は叫ぶように泣き続けた。 恐かった…悲しかった…恥ずかしかった…悔しかった… 様々な思いが彼女に更なる声を上げさせる。 そして、涙も声も枯れ果てたころ、美汐には次の受難が待ち受け ていたのだった。 第2話へ |
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