第2話「悲しい再会」 …私は立ち直れるはずだった… …でも…それも水の泡…… 暗闇の中、ドアがゆっくりと開いた。 懐中電灯を照らしながら、複数の足音はその部屋の中央に進む。 そこには一人の裸の少女。 自ら垂れ流した小便に足を浸し、糸の切れた人形のように俯いていた。 「……お目覚めの時間だぜ…天野美汐ちゃんよ」 一人の男の手が美汐の顎にかかり、強引に顔を上げさせる。 彼女は虚ろな瞳で力なく周りを囲んだ男たちを見ていた。 「………」 「へへへっ、まさかこんなに上手く行くとは思わなかったよ」 「全くだ、相沢はいいメモを残してくれたもんだ」 男たちは美汐を戦利品でも得たような目で眺めている。 「…メ…メモ…?」 美汐は訝しい視線で、掠れた声を絞り出した。 「そうだな、ついでだから教えてやるよ・・相沢はなお前を誘い出すための手口を メモに残してくれてたんだよ」 …そんな…。 「…電話で真琴と言う名前を出す。…それでも断るのなら、弱っていると言って、 一度会って欲しいと頼む…」 男はメモを朗読してみせた。それはまさに先程の電話の内容と寸分違わぬものであった。 「…それじゃあ…あの子の話は嘘だったの…?」 美汐は一段と悲しみを帯びた声で呟いた。 「嘘ではないさ…何しろこの建物の中にいるんだからな」 「…えっ…」 美汐の表情が揺れた。 …真琴はやっぱり…生きている…の…? 自らが男たちに恥辱の姿を晒していることすら忘れ、美汐は未だ混乱している頭を整理していた。 「…真琴に会わせて…」 そして、小さくそう呟いた。 だが、男は美汐の願いを無視すると、無言で曝け出されている美汐の小さな乳房を鷲掴みにした。 「…ぐっ…痛っ…」 あまりの乱暴さに美汐の顔が苦痛に歪んだ。 しかし、男は止めるどころか両手で二つの膨らみを丹念に揉みはじめる。 「…けけ…小せぇ胸は最高だぜ、おまけにいい弾力してやがる」 「全く、テメェも悪趣味だな…」 「いいじゃねぇかよ…一人前の奴隷に調教したら、絶対この乳首にピアスつけてやるぜ」 「勝手にしろ、俺はマンコさえぶち抜けりゃそれでいいんだからよ」 男たちは美汐を尻目におぞましい会話を展開している。 …………。 美汐は自らのこれから運命を考え戦慄を覚えたが、それ以上に真琴のことが頭から離れなかった。 「さて…撮影も終わってるし、さっさと戻ろうぜ」 一人の男が美汐を拘束している鎖を解きながら、意味深な言葉を発した。 「…さ…つえい……??」 嫌な予感を浮かべながら、恐る恐る美汐は男たちに尋ねた。 「おぉ、言ってなかったな。お前のお漏らしはあそこにあるカメラで撮影させてもらったからよ」 「…え…?」 男が指差した方向には1台の小型カメラが設置されていた。 「もちろん赤外線だから感度はバッチリさ」 「もし、逃げたら街中にばら撒いてやるから覚悟しとけよ」 「………」 美汐は、その現実と、男たちから返ってきた言葉にただ俯く事しか出来なかった。 …どうして…。 ぶつけようのない悔しさと悲しみに、再び涙が溢れてくる。 …これも全てあの人を信じたせい…なの? 美汐の脳裏に忌まわしい男の姿が浮かんだ。 だが、それについて深く考える暇もなく、男は美汐の拘束を解くと無理矢理立ちあがらせる。 「ほら、歩くんだ」 そして、両腕を後で固定し歩き出すように促した。 「…痛い…」 美汐は窮屈な体勢に顔を歪める。 しかし、そんな彼女にも男は容赦はしなかった。 「だったら、さっさと歩けって言ってんだろっ!」 …ぱしぃ! 美汐の尻に男の平手が飛んだ。 「…ひぃぃ…!」 美汐は衝撃と恐怖に体を強張らせながら、よろけるように入り口に向かって歩を進める。 そして、男を引き連れるように、暗闇の先にある扉を抜け廊下に出た。 「ほれ、こっちだ」 「………」 美汐は男に促された方に足を向け歩きはじめる。 懐中電灯が目の前を照らしていたが、その先は漆黒が続いていた。 どのくらい歩いただろうか。 リノリウムの廊下は美汐の履かされている革のブーツと男の靴音だけが響いている。 美汐は背後の男たちよりも、その闇と足音のほうが不気味だったが、真琴に会えるという 微かな希望がその感じを少しだけ和らげていた。 やがて、廊下の突き当たりにある部屋に辿り着くと男が美汐の前に出る。 「さぁ、着いたぜ」 そして、男は部屋のドアを開いた。 中は電気が消されており、やはり闇だった。 だが、暖房が入っているのか生暖かい空気が流れてくる。 しかし、それと同時に妙な匂いも鼻をついた。 「…ぅ…っ…なに…?」 そして、部屋に引き入れられると、美汐は部屋中に漂うその異臭に思わず声を上げた。 今まで彼女が嗅いだ事のないような強烈な匂いだった。 「へへ、匂うんだろうな」 「まぁ、じきに慣れるさ」 男たちは特に意に介す様子もなく部屋に入っている。 そして、男はドアの横にあった照明のスイッチをつけた。 美汐の目に部屋全体が映る。 「…いやぁぁぁぁ……っ……うぅぐ…」 その瞬間、美汐は目の前の光景に悲鳴を上げたが、とっさに男に口を塞がれた。 「声がでけぇよ、ぶっ殺されてぇのか!?」 「…うぐ…ぅぅ…」 しかし、美汐は男の声など耳に入らぬほど動揺している。 部屋の中央には一人の女が横たわっていた。 その女は首にロープを巻かれている以外は一糸も纏わぬ姿だった。 そして、顔や髪の毛、乳房や尻、太腿に至るまで、ありとあらゆる場所に男たちの精液が こびりつき、乾燥して粉を噴いている。 しかも、微かに呼吸を繰り返すたび、唇や秘部や肛門からは糸のように精液が逆流しているのだ。 それが真琴だった。 「…ひどい…」 ようやく男の手が美汐の口から離れると、彼女は声を震わせた。 そして、真琴の傍に近寄ると、その無惨に汚れた手を握る。 その手にはしっかりと温もりがあった。 「…真琴…」 「………」 だが、真琴が返事をする事はなかった。 目の焦点は合っておらず、美汐の存在にも気がついていないようだった。 「へへへ、無駄だと思うぜ」 「そうそう、もうそいつは息をするだけの精液処理人形だからよ」 「まだまだマンコもケツも締まるしな」 美汐の背後で男が笑った。 「…ケダモノ…」 美汐は小さく、そして怒りを込めて呟いた。 「言ってくれるじゃねぇかよ」 「…痛っ…」 美汐は男に髪を鷲掴みにされる。 そして、男の方を向かされた。 「…こんなことをして…いいと思ってるの…?」 美汐はそれでも勇気を振り絞って男に問う。 真琴の存在が彼女に力を振り絞らせていたのかも知れない。 「貴方たち…絶対に捕まりますよ…」 怒りと悲しみの篭った声だった。 だが、男たちからは意外な答えが返ってくる。 「それはどうかな?」 「…え…?」 「なんたってこいつは人間じゃねえからなぁ、俺たちを裁く法律はねえんじゃねぇのか?」 「せいぜい器物破損だろ、へへっ」 「それに、こいつは消えるって相沢に聞いたぜ」 「………」 あの人はどこまでも私たちを苦しめるのね… 再び出てきた死者の名前に美汐はきつく拳を握った。 「…でも…私をこう言う目に遭わせた罪はどうなるのですか?」 美汐は自分を引き合いに出すのは気が向かなかったが、それでも男たちに食らいついた。 しかし、やはり男たちに動揺はなかった。 「へへ、美汐ちゃんが自分で望んだ事だったら罪になんかならないよな」 「…ど、どういうことですか…?」 「つまり、今にお前は俺たちのチンポなしじゃ生きられなくしてやるって事さ」 「……本気で言ってるのですか?」 「当たり前じゃねぇかよ」 「………」 美汐はこれ以上何を言っても無駄だと思った。 …救いようのない人たち……いや…人じゃないわ…人の皮を被った獣ね…。 …この子の方がずっと…ずっと人だよ…。 そして、そう心の中でやり切れない気持ちを叫ぶと、自らが想像した運命の先を男に尋ねる。 「…でも…私がそうならなかったら…?」 「そうだな、その時はものみの丘で狐の餌にでもなってもらうさ」 それも祐一に聞いたのであろう、男は美汐の心に刺さる場所を挙げた。 …そう…私は餌になるのね…。 真琴の煤けた髪を撫でながら、美汐はそう覚悟した。 第3話へ |
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