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■dearly■

 

 

 




             

第6章




…わたしはどうしちゃったのかな…?






  部屋にはうっすらと朝陽が挿し込んでいた。

…うぅ…

  そして、その光に反応するように、名雪は寝返りを打つ。

  不意に目が覚めた。

「…あれ…?」

  名雪は、寝ぼけながら不思議そうに呟く。

「ど…どうして…かな…?」

  そして、乱れている髪を引きずりながら置き上がった。

  目の前に見慣れた部屋が広がる。

  絨毯こそ、秋子が新しい物に替えてくれたたため違っていたが、机やカーテン、
洗濯され、少し色褪せたカエルの人形など、いつもと変わらぬ光景が名雪を迎えた。

………

  名雪は必死に昨晩の事を思い出す。

…あゆちゃんの家を出て……、あれ?…思い出せない…

  しかし、記憶は完全に途切れていた。

…どうしちゃったのかな…?

  名雪は困惑した表情を浮かべ、再び記憶を辿る。

  だが、何度思い出そうとしても、夜、自らがどうしていたかは思い出せなかった。

「…なんだろ…」

  不意に、言い知れぬ恐怖感が名雪を襲った。

  もちろん、それが何であるか彼女には理解し得ない。

  しかし、小さく体を丸めると、名雪はベッドにうずくまった。

…恐い…

…恐いよ…

…やっぱり…わたし…

…わたしじゃなくなってる…

  名雪の瞳からはうっすらと涙が零れはじめる。

  だが皮肉にも、それと同時に、彼女の股間が目を覚ましたように胎動をはじめた。

「…ひぐっ…」

  名雪は驚くように震える。

  だが、すぐに下半身の感覚に呼応し、ムラムラとした欲望が流れはじめた。

  そして、彼女の体を包んで行く。

「…はぅ…ぅ…」

  名雪は欲望を押さえる事が出来なかった。

  無意識に、手は下半身に伸びると、ゆっくりとパジャマのズボンを引き下ろす。

  すぐに勃起したおぞましい巨根が、名雪の眼前に露わになった。

「…え…?…ひぃ…!」

  だが、それを見て、名雪は短い悲鳴をあげる。

  そう、いつも見る男根とは少し違っていたからだった。

  相変わらず青筋を立てながら激しく勃起しているそれは、あちこちに乾いた
血のような汚れが付着している。

  そして、それが愛液の染みと混ざり、汚らしく男根を彩っていた。  

………

  名雪は再び胸が締めつけられる思いだった。

  しかし、それとは裏腹に、細い手は男根に伸びると、欲望を満たすために盛んに
動きはじめている。

「…どうしてかな…?…うぅ…」

  そして、襲い来る快感に涎を流しながら、名雪はいつまでも気にしていた。




  名雪は3回ほど射精を繰り返している。

 シーツは再び精液でドロドロになっていた。

 だが、名雪は抑えることも出来ず、今も浅ましく男根を扱いている。

「…ぁ…あぁ…、き…きもち…いい…」

 男根を扱く度、垂れ落ちた粘液が名雪の指に染み込んでいく。

 そして、その刺激が更なる欲望を生み出していた。

…びゅるる…びゅく…

 また大量の白濁液が名雪の男根から噴き出される。

「…はぁ…はぁ…、また…イっちゃった…」

 名雪は悩ましい顔で、汚液に塗れる手と男根を見ていた。

 

 数分後。

 ようやく名雪は自分の部屋を後にする。

 それでも、普段より少し早い時間だった。

 名雪はリビングに下りテーブルに就く。

 髪を綺麗に整え、皺がついていた制服もアイロンをかけていた。

 見た目は普段の彼女と全く変わらない。

 だが、名雪は、今も言い知れぬ恐怖に怯えていた。

 しかも、股間の一物は、いつ息を吹き返すやも知れない。

 彼女は複雑な表情でテーブルの上を見ている。

「おはよう、名雪…」

 その時、秋子がいつも通り、湯気の立っているコーヒーを名雪の前に置いた。

「おはよう?おかあさん…?」

 名雪は、少し不思議そうな顔で母親の方を見上げる。

 しかし、それは彼女自身の不安ではなく、別の違和感のためだった。

 そう、秋子の声に悲壮感のようなものが漂っていたからである。

 少なくとも名雪が聞いたことのない声だった。

 二人の目が合う。

「…どうかした?私の顔に何かついているかしら?」

 だが、秋子は咄嗟に娘の気持ちを察したのか、すぐにいつもの母親の声に戻ると、
にこやかに笑った。

「…うぅうん。何でもないよ」

 名雪は口元だけで笑いながら、カップを両手で握ると、小さく俯く。

 自らの不安が、聞こえてくる声すら暗くさせたのだと思った。

  そして、再び股間から飛び出している肉の感覚に苛まれる。

 だが、名雪の違和感は間違ってはいなかった。

 もっとも、それを思い知るには、まだ時間があった。



 空には一面の青が広がっている。

 もう冬だと言うのに、それを感じさせない陽射しだった。

 名雪は一人、通学路を歩いている。

 彼女は横目で左側を見た。

「…………」

 もちろん、そこには誰もいない。

 しかし、つい数ヶ月前までは、そこに彼がいたのだ。

「…ゆう…いち…」

 名雪は小さく彼の名前を呼んだ。

 だが、聞こえてくるのは自らの靴の音だけである。

 そして、名雪は胸が締めつけられるのを感じた。

 それでも、それを打ち消すように前に進む。

 しかし、やはり耐えられなかった。

「…もう…振り返って…くれないのかな…」

 諦めたはずの思いが、再び彼女を取り巻く。

 異形の体になっても、名雪の思いは変わっていなかった。

 どんなに苦しくても、そして、彼の幸せを奪い去ろうとしても、やはり、
名雪にとって祐一の存在の大きさは変わらなかった。

 いつしか、止め処なく涙が零れてくる。

 視界は完全に霞んでいた。

「…ゆういち…」

 名雪は、はぐれた猫のように彼の名を呟き続ける。

 そして、いつしか彼女は学校に辿り着いていた。

 だが、そんな彼女を校門の前で待っている者が居た。




「…ぁ……」

 名雪は、門の角に凭れながら、こちらを見ている存在に気がつく。

 そして、まじまじと目を凝らした。

「…………」

 そこに居たのは祐一だった。

 じっと、名雪の方だけを見ている。

「…ゆう…いち…?」

 名雪は驚いた。

 まさか、彼が自分の前に姿を見せるとは思いもしなかったからである。

 そして、涙も拭かずに、彼の元へと歩を進めた。

 胸の鼓動が次第に高まっていく。

 もしかしたら、やり直せるかもしれない…。

 そう思った。

「ゆ…」

 そして、名雪が精一杯の声で、祐一に語りかけようと口を開いた時、彼は
一気に動き出した。

…ガバッ

「…ぁぅ…ぐっ…」

 名雪は有無を言わせず、制服の胸倉を掴まれると、一気に石造りの壁に
押し付けられる。

「あゆに何をした?」

「…ぇ…?」

 祐一の顔は、名雪が見たことも無いほど憎悪に包まれていた。

 そして、首が絞まるほど、彼女の制服を握っている。

「…何…って……?」

 名雪は、あまりの恐怖に顔を歪めながら、震える声を絞り出す。

「しらばっくれんのかよ?あゆから聞いたぜ…、お前、あいつの髪の毛を
引き千切ったそうじゃねぇか?」

 祐一の声は、辛うじて平静を保ってはいたが、今にも爆発しそうな雰囲気だった。

「…………」

 名雪は何も答えられない。

 それは、あゆが口外してしまった事が原因ではなかった。

 もう、祐一とは昔のように触れ合う事が出来ないと痛感したからである。

 再び、瞳からは涙が溢れてきた。

 だが、そんな事はお構いなしに、祐一は口を開く。

「どうしたんだよ?黙ってたってわかんねえぞ!お前がイトコだったって、
許される事じゃねぇぜ!!」

 祐一は鬼のような形相で、声を荒げた。

 それを切っ掛けに、名雪の胸倉を掴む力が更に増す。

「…ゆ…ぅ…いち…、いぃ…いたい…よ…ぉ…」

 名雪はただ、そう呟く事しか出来なかった。

 否定する事も、言い訳する事も、今の彼女には出来得ない。

 ただ、絶望だけが名雪を取り巻いていた。

 しかし、その時、祐一は彼女の制服から手を離す。

 名雪は力尽きたように、壁に凭れながら、ゆっくりとしゃがみこんだ。

 そして、その頭上から、祐一は吐き捨てるように口を開く。

「いいか?今度、一度でも俺たちの家に来てみろよ?その時は…ぶっ殺す…
からな!」

「……………」

 その言葉を、名雪は壊れた人形のように聞くだけだった。

 体の力が更に抜けていく。








…わたし…何やってるんだろう…?

…もう…戻れないん…だよね…
 
…悲しいよ…

…悔しいよ…

…誰か…わたしを…たすけて…
 
 そして、次第に名雪は意識を失っていった。




 だが、暫くすると、名雪は無言のまま立ち上がる。

 その顔には、表情はなかった。

 そして、ゆっくりと今歩いてきた道を引き返す。

 やがて辿り着いたのは、自分の家だった。

「…ただいま…」 

 名雪は鍵の掛っていないドアを開くと、静かにそう呟く。

「…名雪?」

 すぐにリビングのドアが開くと、そこからは秋子が姿を見せた。

「どうしたの?」

「…………」

「名雪??」

 秋子は、無言のまま立ち尽くす娘の前に進み出る。

 そして、優しく手を取った。

 すると、名雪はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「…おかあさん…」

「はい?」

「…わたしね…、祐一に…殺されそうになったよ…」

「…………」

 その瞬間、秋子の手が震えた。

 そして、その顔は次第に厳しくなっていく。

「名雪?」

「うん?」

「お母さんは…これからちょっと出かけてきます…。だから、部屋で休んでいて」

 秋子は精一杯、優しい声で名雪に語りかける。

 名雪は素直に頷いた。

 そして、一旦リビングに戻ると、すぐに姿を見せた秋子を後ろから見送る。

 静かにドアが閉まった。

 家の中は沈黙に包まれる。

「頑張ってな…」

 だが、それを打ち消すように、名雪は不気味な笑顔でそう呟いた。





…夢を見てたのかな…?



 名雪の意識が次第に開けていく。

 視界には、暗闇だけが広がっていた。

 彼女は、ゆっくりと覚醒していく意識を肌で感じている。

「…どこ…だろ?」

 そして、自分に言い聞かせるように口を開いた。

 そこは、よく知った場所。

 そう、名雪は自分の部屋に居たのだ。

「…うそ…?」

 名雪は、その光景に困惑した表情を浮かべる。

 そして、ゆっくりと記憶を辿った。

 だが、学校の校門までの記憶しか自らにはない。

「…どうして…?まただよ…」

 名雪は再び起きた奇妙な事態に、首を振った。

「…やっぱり…わたし…」

 不安な面持ちで、名雪は部屋の灯りを点ける。

「…ひやぁ!!」

 だが、そこで名雪は更なる恐怖を味わうのだ。

 床には、無数の雑誌が転がっていた。

 それは、どれも女性の裸の写真が載っている。

 そして、彼女の男根から発射されたと思われる白濁液が、その写真を、
線を描くように汚していた。

 床からは、生乾きの汚液が激しく異臭を発している。

「…そ…そんな…」

 名雪は、床に腰を下ろすと、一冊の雑誌を手に取って見た。

 そこには、大股開きでカメラに妖しい表情を見せる女性が写っている。

「…わたし…これで…やっちゃったのかな…?」

 名雪は、信じられないといった様子で、ページを捲った。

 どのページにも、数多くの女性がカメラを意識した目線で、はしたないポーズを
作っている。

「…………」

 だが、いつしか名雪はその雑誌を見入っていた。

 次第に、股間の男根もその勢いを取り戻している。

「…うぅ…我慢…できないよ…」

 名雪は少しづつ息を荒くしながら、ズボンを下ろした。

 飛び跳ねるように、男根が腹に当たる。

 そして、それを彼女は、擦るように握った。

 目の前には、後ろから尻を突き出し、秘部と肛門を広げている女性が写っている。

 もちろん、その部分には消しが入っていたが、今の名雪には関係なかった。

 心の中に、数日前の出来事が浮かんでくる。

 一心不乱にあゆを犯した光景が。

「…あぁ…また…あゆちゃんと…したい…な…」

 名雪は写真とあゆを重ね合わせながら、自慰に耽っていた。

「…え…?」

 だが、その時である。

 一つの光景が、名雪の頭を霞めた。

 そこには秋子が居る。

(…お母さんは…これからちょっと出かけてきます…。だから、部屋で休んでいて)

…出かけてくる…?

…どこに…?

…うそ…?

……

 名雪は、跳ね起きるように立ち上がると、部屋を駆け出す。

 男根が剥き出しになっている事すら忘れていた。

 そして、リビングに足を踏み入れる。

「おかあさん?」

 名雪は秋子を呼んだ。

 だが、暗闇が部屋を覆うだけだった。

…そ…そんな…

 名雪は、未だ勃起する男根を無理矢理、制服の下に仕舞いこむと、
家を飛び出す。

 そして、一気に道を駆け抜けていく。

 向かう場所は決まっていた。

 決して近くはなかったが、名雪にとっては苦にならない距離だった。

 やがて、見覚えのあるマンションに辿り着く。

 そう、そこは祐一とあゆの家だった。

 階段の前まで来ると、名雪の脳裏を、今朝の祐一の言葉が掠める。

…………

 だが、彼女はそれを必死に振り払うと、階段を駆け上がった。

 すぐに、彼らの部屋が名雪の眼前に入る。

「…お…おかあさん…、ゆういち…」

 名雪は、そう呟くとドアのノブを回した。

 すると、ドアは何の抵抗もなく開いていく。

「…うぅ…」

 部屋の奥からは、あゆの唸るような嗚咽が響いていた。

 すぐに名雪もその場所へ足を運ぶ。

「…うそ…っ…?」

 そして、その先には倒れている秋子と、その傍に立ち尽くす祐一の姿があった。





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