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■ささやかな願い■

 


(第2話)






 翌朝。

 水瀬家はいつもの喧騒に包まれていた。

「うにゅ〜、たへんだよ〜」

「あら、名雪?どうかしたの?」

「けろぴーが居なくなっちゃった…」

「うふふ、名雪が自分で抱えてるわよ」

「くー」

 漫才のように交わされる母娘の会話。

 何ら変わりのない朝だった。

 だが、その輪の中に入れず、一人祐一はコーヒーを啜っている。

 …祐一さんに出来るかな?

 頭の中には常にその言葉が巡っていた。

 …栞…。お前は俺に何をさせたいんだ…?

 祐一は頭の中の少女に問い掛ける。

 しかし、答えなど見つかるはずも無かった。








 その日は、彼にとって何の意味も持たない日だった。

 いつもなら、退屈しない通学路。

 名雪や香里たちとの会話。

 自分なりに真面目に取り組んできた授業。

 それらは、今の祐一にとっては負担でしかなかった。

 いままで当たり前に感じた事に触れるたびに、彼の心は蝕まれていく。

 そして、それから逃れる為に、彼は必死に思いを巡らせる。

 だが、その度に、祐一は壊れていく日常を肌で感じるのだった。



 そして、祐一は為す術の無いまま昼休みを迎える。

 彼は、終業のチャイムとともにゆっくりと立ち上がると、食堂に向かう生徒の波に飲まれた。

 もっとも、祐一の行く先は食堂ではない。

 彼は廊下の途中でその波からはぐれると、一人中庭の方へ歩を進める。

 辺りには誰も居なかった。

 まるで、彼の周りだけ別の時間が流れているように。

 そして、すぐに目的の場所へと辿り着く。

…がらがら…

 祐一は鉄の扉を開いた。

 すぐに外の陽射しと、肌を刺す冷気が流れ込んでくる。

 そして、ゆっくりとその先を見た。

 中庭の中央には、一人の少女が立っている。

 まるで、今にも消えそうな儚さを醸し出していた。

 だが、そんな姿をしている少女に、祐一は恐怖と不安を感じているのだ。

 彼はなかなか中庭に足を踏み出せなかった。

 堕落した自らが、さらに落ちていく。

 そんな気がした。

 だが、既に少女はこちらを見据えている。

 そして、嬉しそうに笑みを浮かべていた。

………

 観念するしかなかった。

 祐一はまるで導かれるように、足を踏み出す。

…ぱりっ

 中庭に下りる階段についていた氷が、小気味いい音を立てて割れる。

 だが、今の祐一にはその音すら耳には入らない。

 ただ、ゆっくりと少女の元へと近づいていくだけだった。

「お待ちしてましたよ。祐一さん」

「…栞…」

 いつもの笑顔で出迎える栞と、今にも壊れそうな表情を見せる祐一。

 まるで二人の間に、目に見えない境界線が引かれているようだった。

「あのな…栞…」

 だが、そんな雰囲気に耐えられなかった祐一は、咄嗟に口を開く。

 とにかく、今の状況から逃れるために、謝罪の言葉を繰り返そうと思った。

 何度でも頭を下げようと思った。

 これ以上、見えざる未来を考えるのが嫌だった。

「あ、そうだ」

 だが、それも栞の言葉に封じられる。

「昨日の写真、現像できましたよ」

 栞は嬉しそうに、スカートのポケットから写真を取り出した。

 そして、その束のように厚く重なっている写真を祐一に見せる。

「………」

 祐一は何も言えなくなった。

 そこには、栞の無残な光景が写っている。

 秘部から痛々しく血を流し、顔は苦悶の表情に覆われている栞。

 誰が見ても、それは同意の元に行われた行為ではなかった。

 そして、彼女を貫いているのが自分だと、祐一は痛いほど理解していた。

「こっちもよく写ってますよ、祐一さん、カメラの才能あるかもしれませんね?」

 栞は相変わらず笑顔のまま、次々と写真を見せ続ける。

 どれも痛々しい光景だった。

「…もう…やめてくれ…」

 祐一は涙声で目を伏せる。

 頭の中では、後悔と恐怖が止め処なく溢れていた。

 だが、そんな中にも、栞を貫いた快感がこびりついている。

 祐一はおかしくなってしまいそうだった。

 しかし、栞はそんな祐一を差し置いて話を進める。

「それでは、祐一さんにやってもらいたいことを言いますね」

「…………」

「お姉ちゃんを犯して欲しいんですよ」

「…なっ…?」

 祐一は、その言葉に耳を疑った。

 誰かを犯してくれという事自体が異様である上に、何と実の姉を犯せというのだ。

 祐一は困惑したまま、栞を見た。

 だが、当の栞は、笑顔を絶やさぬまま続ける。

「聞こえませんでした?お姉ちゃん…、そう、祐一さんと同じクラスの美坂香里を犯して
欲しいって言ったんですよ?」

 そして、更に具体的な名前を出した。

「…そんなこと…出来る訳ないだろ…」

 しかし、祐一は俯きながら、噛み締めるように呟く。

 如何に弱みを握られていても、クラスメイトであり、名雪の親友である香里を
手にかけるなど、出来るはずもなかった。

「あれ?おかしいですね?私の言う事は、何でも聞いてくれるんじゃなかったでしたっけ?」

 栞はきょとんとしながら祐一を見ている。

「…どうして…そんな事言うんだ…?」

 祐一は束縛されたような息苦しさに襲われながら、言葉を返した。

 栞はすぐに口を開く。

「見てみたいんですよ」

「…………?」

「頭が良くて、頼もしくて、そして、私にとってかけがえのないお姉ちゃんが壊れるのを…」

 栞の発言に躊躇はなかった。

 そして、素直にそれを望んでいる。

「……………」

 祐一は動けなかった。

 口を開く事すら出来ない。

 今までと変わらぬ、しかし、何かが違う栞をじっと見るだけだった。

「どうしましたか?」

 だが、当の栞は、ただ祐一の返事を待っていた。

 彼が完全に堕落する言葉を。

「……………」

 しかし、それでも祐一は何も答えられなかった。

 心の中には葛藤が渦巻いている。

 これ以上、非道を重ねたくないと言う思いと、栞に対する負い目。

 祐一の心は、永久に抜け出せない迷路に嵌っていた。

「…仕方ないですね」

 だが、その時、栞は小さく笑いながら、自らの口にそっと指を当てる。

 そして、上目遣いで祐一を見つめた。

「…………」

 その仕草に、祐一は体が熱くなるのを感じる。

 ドロドロとした思いが込み上げてくるのがわかった。

 そして、栞は彼の期待を叶えるかのように、羽織っていたストールを地面に落とす。

 当然、その下には服を羽織っているが、彼女の華奢な体のラインが露になった。

 何処となく新鮮な栞の姿に、祐一の心は更に高鳴っていく。

「迷いを解いてあげますね…」

 そして、栞はそう言うと、祐一の胸に、そっと体を重ねた。

 彼女のほのかな温もりと、髪から匂うシャンプーの香りが祐一に伝わる。

「…し、栞……?」

 祐一は、その感触に浸りながらも、戸惑いながら声を上げた。

「遠慮しなくてもいいですよ?」

 だが、栞は祐一に構うことなく、彼の前に跪く。

 そして、ゆっくりとズボンのチャックに手をかけた。

「…お…おい…」

 祐一は驚きの声を上げたが、その行為を拒絶する事はない。

 そればかりか、期待に胸を高鳴らせていた。

…チャ…

すぐに、彼の男根が姿を現す。

 それは、薄っすらと青筋を立て、半勃ちの状態になっている。

「わっ、立ってますよ?祐一さん」

「…うぅ…」

「温かいですね」

 栞は、戸惑う祐一を尻目に、両手で男根を握ると軽く揉みはじめた。

 栞の柔らかい指の感覚が、祐一の体に走る。

 それは、快感に変わりながら、彼の体を満たしていった。

「気持ちいいですか?」

「………ぁあぁ…」

 栞の問い掛けに、祐一は素直に頷く。

 男根は、それを証明するように、完全に勃起していた。

 しかし、それでも栞は、男根を包み込むように両手で扱いている。

 いつしか、その先端からは、透明の粘液が雫の塊を作っていた。

「…ぁぁ…栞…」

 祐一は、顔を赤らめながら、嘆願するような声を絞り出す。

 それが、何を意味するのか栞にはわかっていた。

「やっぱり、舐めて欲しいですよね?」

「………うぅ…」

 祐一は、息を漏らしながら上下に首を振る。

 頭の中は、栞の口の感触を想像する事でいっぱいだった。

「わかりました。でも、最初に答えてくださいね?」

「……ぅ?」

「お姉ちゃんを犯してくれますよね?」

「…あ…う…ぅ…」

 祐一の脳裏に、再び悪夢の選択肢が浮かぶ。

 だが、今度は迷う事はなかった。

 身を焦がす快感に、祐一は逆らう事は出来なかったのだ。

「…わ…わかった…、だ…だから…」

 祐一は泣きそうな声を上げながら、何度も首を縦に振る。

 そして、男根からは涙のように粘液が垂れ落ちていた。

「ありがとうございます」

 栞は嬉しそうに笑うと、その濡れた鈴口に唇を重ねる。

…ちゅぷ

 祐一の先端に、熱いものが重なっていく。

 そして、それはすぐに男根を包んだ。

「…あぁ…ぁ…」

 祐一は情けない顔でうめくと、空を見上げる。

 そこは真っ青で、雲ひとつ無かった。

 だが、彼はそれすらわからないほど、股間から生まれる快感に浸っている。

 そして、栞は、今にも爆発しそうな男根を咥えると、丹念に舌を這わせた。

 すぐに口の中は、自らの唾液と、祐一の粘液で溢れ返る。

…ぐちゅ…ちゅるぅ…

 しかし、全く気にすることなく、彼女は充血した男根を舌で突付いた。

 その時だった。

…びゅく…

 不意に、男根は弾けながら、栞の口の中に精を放つ。

 喉の奥に、大量の精液が流れていった。

「…びゅる…ぅ」

 栞は、あっという間に口を埋め尽くした汚液に戸惑いながらも、それを嚥下していく。

…ごきゅ…

 濃い精液は、栞の喉を鳴らしながら、体の中へと落ちていった。

「……うぅ…」

 祐一は、それを快感と気まずさが混同した顔で見ている。

 しかし、栞は一滴も零すことなくそれを飲み干すと、ゆっくりと男根を口から離した。

 満足感に、すっかり柔らかくなった肉棒が露になる。

「…どうでしたか?」

「…ぅう…よかった…」

「それは何よりです」

 栞は、嬉しそうに笑うと、丁寧に彼のズボンに男根をしまう。

 そして、ストールを拾うと、それを羽織り立ち上がった。

 とても、男根を咥え、その精を飲み干した直後の少女の姿には見えない。

「…栞…」

 祐一は、呆然と立ち尽くしながら、彼女の名前を呼んだ。

 困惑と気まずさが滲んでいる。

「期待してますから」

 だが、栞から返って来た言葉はそれだけだった。

「……………」

 祐一は言葉を噤む。

「では、方法は明日までに考えておきますので、また明日のお昼休みにお会いしましょうね」

「………あぁ…」

 そして、魘されるように頷くと、彼はただ中庭を後にする栞を見送った。

 もう、後戻りは出来ないという事を痛感しながら。



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