(1)
「う〜」 部屋には少女の困った声が響いていた。 向かい合う少女はそれを優しい眼差しで見ている。 「え〜と…、じゃあ…森を4つタップして…<クローサの獣>を出すよ…。墓地にいっぱい カードがあるから、パワーもタフネスも8よね?」 少女は慣れない手つきでカードを床に置くと、確認するように向かい合う少女を見た。 「はい、その通り。でもね…真琴、ごめんなさい。私は島を2つタップして<対抗呪文>を 使います」 「あぅ〜っ、美汐ひどい…」 真琴は残念そうに、場に置いたカードを墓地と呼ばれる使用したカードの重なっている 場所へ移す。 「じゃあ…攻撃宣言するね」 だが、気を取り直すと、真琴は場に置いてあるカードを何枚か横に向けた。 「攻撃クリーチャーは<ラノワールのエルフ><訓練されたアーモドン><疾風のマングース> の3体ね」 「わかりました」 「じゃあ、何もしないなら6点だよ」 「はい。真琴も何もしない?」 「うん。何もしないよ」 「では、全て本体で受けて、残りライフは4です」 「じゃあ、エンドね」 「はい」 美汐は淡々と真琴の攻撃を受けると、ゆっくりと場にあるカードに手を伸ばす。 「では、真琴のディスカードステップに<選択>を使います」 「あぅ〜っ、いいよ」 「はい、ではライブラリの上を1枚見ます…」 美汐はカードを捲り、それをじっと見ていた。 「…これはライブラリの一番下に置きます。そして、カードを引きます」 美汐は顔色一つ変えず、それを山の一番下に置き、上から別のカードを手札に入れる。 「それでは私のターンに入りますね」 そして、自らのカードを1つずつ起こしはじめた。 「では、ドローします」 再びカードを引くと、美汐はゆっくりと手に持っている6枚のカードに目を向ける。 そして、6つの土地カードを横に向けると、1枚のカードを手札から場に置いた。 「<マハモティ・ジン>を召還するけど、何かする?」 「あぅ〜っ、大きい…。でも、いいよ〜」 「それでは、これでターン終了です」 美汐は。静かに頷き真琴を見る。 「じゃあ真琴のターンはじめるね。アンタップして…アップキープは何にもなし… で、ドローっと…」 真琴は、確認するように口ずさみながら場のカードを起こし、山札を引いた。 そして、すぐに土地カード5つを横にする。 「え〜と、<踏み荒らし>使うね?」 「…はい、どうぞ」 「やったぁ、じゃあ全てのクリーチャーは+3/+3の修正だね。それで攻撃するわよ」 真琴は嬉しそうに先ほどの3体のクリーチャーカードを横に向けた。 だが、美汐は顔色1つ変えずに、自分の場に起きていた3枚の土地カードを倒す。 「では、攻撃に入ってから、私は<冬眠>を使います」 「あぅ〜っ…そ、そんなぁ!」 真琴は驚いたように、手札を握り締めながら場を見ていた。 しかし、何もすることが出来ず、彼女はゆっくりと場にあるクリーチャーカードを 手札に戻していく。 「美汐、ひど〜い」 「ごめんなさいね」 「あぅ〜ぅ、いいの…。それじゃあ…残っている3マナで<訓練されたアーモドン>を もう一度召還するわ」 「はい」 「じゃあエンド…」 真琴はちょっと残念そうに、美汐に番を回した。 再び、美汐は淡々と土地カードを起こしていく。 表情は何一つ変わらなかった。 そして、彼女は唯一のクリーチャーで攻撃を仕掛ける。 「どうします?」 「あぅ…本体で受けるわ」 「はい、では5点のダメージです」 「残り15点だよ…」 真琴は残念そうに自分のライフを示す20面体を動かしていた。 美汐は、それが終わるのを見ると、3枚の土地カードを横にする。 「それでは、戦闘が終了したので、私は<秘儀の研究室>をキャストします」 「う〜、どうぞ」 「では、エンドです」 再び、真琴の番になった。 「じゃあ、攻撃宣言するね」 「はい」 「クリーチャーはこの子だけ」 象の絵が描かれたカードが横に向けられた。 だが、美汐はまたしても先ほどのカードと同じものを手札から彼女に曝す。 「では、また<冬眠>を使います」 「あぅ〜っ、うそぉ…」 真琴は、信じられないといった顔で美汐を見た。 だが、すぐに場にあったそのカードを手札に戻す。 そして、今度は5つの土地を倒すと、別のクリーチャーを召還した。 「じゃあ、<カヴーのカメレオン>を出すよ?これなら大丈夫だよね?」 「ええ、どうぞ」 「それじゃあエンドね」 「はい」 美汐は再び自らの番になり、土地を起こしカードを引くと、クリーチャーで攻撃を宣言する。 美汐の<マハモティ・ジン>は飛行を持っており、当然、真琴の<カヴーのカメレオン>では 防ぐことは出来ない。 真琴のライフは10になった。 「では、私は4マナで<非物質化>を使います。対象は<カヴーのカメレオン>です」 「あぅ〜っ…」 再び真琴のクリーチャーは手札に戻される。 そして、美汐はターンを終えた。 真琴は自らのターンで再び<カヴーのカメレオン>を召還するが、美汐の場にある <秘儀の研究室>のために、それでターンを終わらせるしかなかった。 「では、再び<マハモティ・ジン>で攻撃します」 「あぅ〜…残り5点…」 「では、7マナ払ってフラッシュバックで<非物質化>を使います。対象は… <カヴーのカメレオン>です」 「あぅう…」 また、先ほどのターンの繰り返しだった。 真琴は手札にカードを戻すと、残念そうにそれを見ている。 「では、エンドです」 しかし、それでも美汐は表情一つ変えず、小さく頷いた。 「あぅ〜っ…真琴のターン…」 真琴は既に勝ち目が無い事を悟ったのか、溢れんばかりのカードを手に抱え、静かに 土地カードを起こしはじめる。 そして、カードを引いた。 「あぅ…」 だが、引いたカードを見て、真琴の表情が変わる。 美汐は少しだけ、それが気になった。 そして、真琴は勇むように5つの土地を倒す。 「真琴はまたこの子を出すわ」 しかし、それは<カヴーのカメレオン>だった。 「はい、どうぞ」 美汐は少し意外な印象を受ける。 「じゃあ、エンドするよ」 そして、真琴は笑顔で美汐にターンを渡した。 「はい。では、私の番ですね」 美汐は再び土地を起こし、カードを引く。 そして、最後の5点を削るべく攻撃を宣言した。 「それでは、<マハモティ・ジン>で攻撃します」 それが通ればゲームは終わりだった。 だが、それに合わせるように真琴は2つの土地を倒す。 「じゃあねぇ、真琴は<もつれ>を打つよ」 それは、攻撃を無力化し、なおかつ次のターンにクリーチャーが起きるのを妨げる呪文だった。 これが通れば、逆に真琴が有利になる。 しかし、美汐はそれを通す訳もなかった。 「ごめんなさい、真琴。<対抗呪文>を使います」 「…あぅ〜っ…」 真琴の手から、カードが零れ落ちる。 それは、美汐の勝ちを意味していた。 「美汐強い…」 カードを片付けながら真琴が呟く。 「うぅうん。たまたま流れが良かっただけ。それに真琴も強かったです」 美汐もカードを片付け、帰り支度をすると、そう優しく声をかけた。 「そうかなぁ…、真琴、美汐に勝ちたい…」 「また、今度やりましょう」 「うん」 真琴は少し淋しそうに美汐を見送った。 その夜。 真琴は床にカードを並べながら、今日の事を考えていた。 「…美汐に勝ちたいなぁ…」 そして、そればかり思っている。 ………? 「え?」 だが、その時、どこからか真琴に囁きかける者がいた。 …どうしても美汐に勝ちたい? その声は、真琴にそう問い掛けている。 「…当然でしょ!勝ちたいに決まってるんだから!」 真琴はその声に、煽られるように叫んだ。 …じゃあ、勝たせてあげようか? 「え…?ホント…?」 …うん、嘘は言わないよ。あなたがその気になればね。 「あぅ〜っ、どうすればいいの?」 …目を閉じて。そして…体の力を抜くの…。 「う〜っ、こ、こうかな…?」 …そう、それでいいよ。 その声は、嬉しそうに呟いた。 そして、真琴の部屋は沈黙に包まれる。 ■次へ |
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